2023年4月13日

MJFFのParkinson’s Progression Markers Initiative(PPMI)研究により、研究者は髄液中のパーキンソン病タンパク質を高い精度で検出できる検査法を検証しました。この検査は、αシヌクレイン・シード増幅法(αSyn-SAA)として、古くから知られており、直ちに、そして広範囲に渡り、研究へ影響を与えます。この検査は、臨床試験の方法を変え、新しい治療法開発までの時間を短縮する可能性や、パーキンソン病(PD)の予防に一歩近づける可能性があります。
主に米国でのシステムに則った記事ですので、日本には当てはまらないところが多いですが、ご参考ください。
日本では展開されていません。
治療にはどのような影響があるのでしょうか?αSyn-SAAは現在、病院の診察室で入手できますが(日本では入手できません)、現在のところは、医師がPDを診断し治療する方法を大きく変える段階ではありません。しかし、将来的にはそうなる可能性があります。それは、この検査がパーキンソン病に大きく関係するたんぱく質の生物学的な変化を測定するものだからです。この検査によって初めて、PDや関連疾患のさまざまな症状や経験を説明するために、体の中で何が起きているのかを調べることができるのです。
この検査について、どのような人が検討し、パーキンソン病の治療にとってどのような意味があるのかを知るために、ニューヨーク市のNYUグロスマン医学部で神経学の創設者教授を務める運動障害の専門家、研究者であり、MJFFが後援する生物学的発見とPPMIバイオマーカー研究を通してαSyn-SAAに取り組んでいるUn Jung Kang医師に話を聞きました。
マイケル・J・フォックス財団(MJFF): テストについて簡単にお聞かせください。
Un Jung Kang (UK): αSy-SAAは、髄液中のαシヌクレイン蛋白の変性した異常型を見つけます。この異常な変性したタンパク質は、パーキンソン病や、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)などのα-シヌクレインの関連疾患のほとんどの人の脳で、解剖時に認められます(これらの非定型パーキンソン病についての説明:英語)。
MJFF: αSyn-SAAでは、何がわかって何がわからないのですか?
UK: この検査では、即座にαシヌクレインの構造に異常があるかどうかを知ることができます。そして、この検査は非常に正確に行うことができます。結果は「はい」か「いいえ」で、すなわち、異常なタンパク質が存在するか、しないかで答え、それにより決まるアルゴリズムで算定されます。しかし、現在の検査では、その量がどの程度なのか、また、その量が時間とともにどのように変化しているのかまでは、知ることはできません。
多くの検査と同様、検査結果が何を意味するのかを理解するためには、病歴や症状との関連性を考慮する必要があります。
日本では
現在、このようなシステムはございません。もし、医療従事者がαSyn-SAAの検査を行う場合、これは臨床研究として計画され、適切な倫理的配慮が必要です。研究の実行は、医療関係者が治療や診断に使用するために、患者の同意の下で取得される必要があります。また、個人情報保護法に基づいて、患者のプライバシーを保護する必要があります。
MJFF: パーキンソン病を診断することができるのですか?
UK: それ単体では、診断できません。例えば、DLBやMSAの患者さんでも陽性になることがあります。また、これらの疾患を持ちながらまだ症状が現れていない人や、まれに疾患のない人でも陽性になることがあります。
また、この検査は、医師がパーキンソン病を診断する方法に取って代わるものではありません。現在では、動きの遅さに加えて震えやこわばりといった「主要な」運動症状がある場合にパーキンソン病であるとの診断が下されます。そして、その診療ガイドラインは改編されていません。しかし、αSyn-SAAは、医師に疑問がある場合や、医師が診断に自信を持ちたい場合に、診察に追加すれば、役立つ可能性があります。
また、この検査は、私たちが現在知っていて定義しているパーキンソン病のすべての人に陽性となるとは限らないことに注意することが重要です。今回の研究では、LRRK2遺伝子変異を持つPDと診断された人は、遺伝子変異を持たないパーキンソン病患者よりもαSyn-SAA検査が陽性になる確率が低いことがわかりました。だからといって、診断や現在行っている対症療法が変わるわけではありません。しかし、αSynが異常である可能性が低いということは、その病気の生物学的性質についてより詳しく知ることができるのです。このことは、病気の理解や、研究、そして将来的には、根本的な生物学的変化を標的とした、より正確なパーキンソン病治療法に大きな影響を与えるかもしれません。
MJFF: これでパーキンソン病のケア方法は変わるのでしょうか?
UK: まだわかりませんが、そうなる可能性はあります。この検査は、私たちが知っていることの延長線上で、大きく貢献するものです。この検査は、身体と細胞の中で何が起こっているのかをより深く理解するもので、症状だけではわからないことを教えてくれます。これまで、私たちはパーキンソン病を一つのカテゴリーに分類してきました。しかし、パーキンソン病は、症状も違えば進行速度も違う、一人ひとり異なる病気なのです。
パーキンソン病が「リンゴ」だとすると、今度は色が見えてきます。多くは赤ですが、黄色もあれば緑もあり、赤と緑が混在するものもあります。今はどのリンゴも同じように扱っていますが、将来はリンゴの色によって、よりパーソナライズされたアプローチを使い分けることができるようになるかもしれません。
MJFF: パーキンソン病を患っている人は、この検査を受けるべきでしょうか?
UK: 医師として、ある検査をしようと思ったとき、私たちは、「この検査によって、その人の治療方法が変わるだろうか?将来についての情報を得ることができるのか?」と考え、この検査が、私たちや患者さんの行動指針になるのであると判断できれば、行う価値があります。一方、そうでない場合は、リスクや時間、費用に見合わないかもしれません。
パーキンソン病患者としてすでに診断され、特に診断から数年以上経過し、典型的な症状や良好な薬物反応がある場合、検査は必要ないでしょう。現在利用可能な治療法を変えることはできませんし、病気の程度や予想される進行がわかるわけでもありません。しかし、この検査によって、その人が特定の臨床試験に適格であることがわかるかもしれませんし、多くの臨床試験ではすぐにこの検査が必要になるかもしれません。
人によっては、特に初期には、PDの診断があまり確実でなく、はっきりしないこともあります。確定診断を待ち続けるよりも、また、「はっきりしないニュース」と付き合うよりも、「悪いニュース」を確認することを望む人もいます。また、拳を開いたり閉じたり、足をたたいたり、廊下を歩いたりすることによる定性的な診断だけでなく、もっと具体的で客観的なものが欲しいという意見も多くあります。このような場合、αSyn-SAA検査が役に立つかもしれません。
検査を受けるかどうか、いつ受けるかは、運動障害の専門医と一緒に決めるのが最も良い方法です。
MJFF:パーキンソン病のリスクがある人は、検査を受けた方がいいのでしょうか?
UK: PD分野の最近の大きな進展の1つは、現在パーキンソン病の診断の基礎となっている運動症状、すなわち震え、緩慢さ、こわばりなどに先行するいくつかの症状を認識できることです。たとえば、夢が行動に出てしまうレム睡眠行動障害(RBD)のある人は、何年、何十年後にPDになる可能性が高いといわれています(日本人では、まだわかりません)。そして、最近の研究では、RBDの方の高い割合でαSyn-SAAが陽性であることが分かっています。PDの運動症状がなく、病気を遅らせる治療法もまだない現段階で、αシヌクレインの異常を知りたいかどうかは、個人の好みです。ある人は、できる限り多くのことを知りたいと思うでしょう。また、将来への不安や心配をもたらすような情報はないほうがいいと思う人もいます。
ただし、病気を予防し、進行を遅らせる治療法が確立されれば、これらの考慮はすべて変わるでしょう。
MJFF: どのようにテストされるのですか?
UK: この検査は、かかりつけの医師を通じて受けることができます。(日本ではできません)もし検討されるのであれば、ぜひ運動障害の専門医に診てもらうことをお勧めします、
この検査で何がわかるのか、何がわからないのか、詳しくはパーキンソン病の専門家であるお近くの運動障害の専門医をお探しください。(こちらは、日本の医師は掲載されていませんが、MovementDisorder認定の専門医の検索サイトです)。
この検査には、脊髄穿刺、つまり腰椎穿刺が必要です。怖いイメージがありますが、米国では一般的に行われている検査で、比較的良性のものです。医師は、脊髄の下にある背骨の椎骨(骨)の間に針を刺し、少量の髄液を採取します。(感染症、出血、一時的な頭痛などがあります。)
MJFF:テストの費用はどのくらいかかるのでしょうか?
UK: 検査自体はまだ保険適用外であり、各人の自己負担額は様々です。(日本人では、研究レベルでしかありません)また、医師の診察や腰椎穿刺の処置に関連する追加費用が発生する場合もあります。検査費用の目安については、医療機関や保険会社、検査実施会社などにお問い合わせください(日本では、どこに聞いてもわからないと言われるでしょう)
日本では
検査方法はまだ確立されていませんので、特に研究を実施している施設でない限り、実施困難と考えます。
MJFF:この検査の次のステップは何でしょうか?
UK:アッセイは非常に正確です。臨床試験の改善に役立てることができます。
第一に、αSynに対抗して病気を遅らせる治療法(疾患修飾治療法)を試す試験に、αSynに異常がある人を確実に含められることです。
現在、このような試験が少なくとも(日本ではなく、海外では)10件以上行われています。そして、病気の発症を遅らせたり、遅らせる治療法ができたら、RBDやその他のPDの初期徴候がある人たちにも試して、病気の発症を防ぐことができればと思います。
αSyn-SAAの次のステップは、以下の通りです:
・血液、皮膚、鼻腔ぬぐい液など、より入手しやすい組織や体液を対象とした同様のテストを作成する。
・PDをMSAのような類似の疾患とより正確に区別できるように、検査を微調整する。初期の研究では、これらの疾患を区別できる可能性が示唆されているが、さらなる研究が必要である。
・結果を定量化する – イエス・ノーから測定可能な結果に移行し、結果が時間とともに変化し、症状、病気の進行、治療効果との相関があるかどうか、またどのように変化するかを確認する。
MJFF:多くの人がパーキンソン病のDaT脳スキャンについて質問します。この検査はどのように似ているのでしょうか、それとも違うのでしょうか?
UK: DaTscanとαSyn-SAAは、どちらも非常に精度の高い検査ですが、それぞれ異なることがわかります。DaTscanは特殊な脳画像スキャンで、黒質線条体ドパミントランスポーターの分布を反映します。本態性振戦や血管性パーキンソニズムなど、同様の症状を引き起こしながらドーパミンが関与しない他の疾患とパーキンソン病を区別するのに役立ちます。
一方、αSyn-SAAは、αSynの生物学的変化について知ることができます。αSynを検査することで、PD、DLB、MSAといったこのタンパク質に影響を与える疾患と、PSPのようなそうでない疾患を分けることができるのです。また、DaTscanで検出されるドーパミン取り込みの減少の前に、αSynの異常が発生する可能性があることを示す初期の兆候もあるようです(例:SWEDD:Acta Neuropathol Commun,2021 Nov 6;9(1):179.)。このことは、運動症状はないがPDのリスクがある人の診断や研究参加にいずれ役立つかもしれません。
CQ:
日本とUSのSWEDD患者比が異なっている可能性があり、PDとSWEDDの鑑別が可能になるかも??
※SWEDD https://www.nmp.co.jp/member/datscan/case/case04.html
DaTSCANの海外第Ⅲ相臨床試験では、臨床診断でPDと診断されたにもかかわらず、本検査で異常のない症例が21%報告されており(Marshall VL et al. Mov Disord 2009; 24(4): 500-50)、これらの患者はSWEDDと呼ばれ、本剤が新しい診断基準を提供することとなった。
SWEDD全国調査
●神経内科専門医 4970 人にアンケートを送付し、933人から回答を得た。うち SWEDD の診療経験がある医師は 78 名であった。
MJFF: アルファシヌクレイン脳内スキャンの開発についてはどうでしょうか。それはもう必要ないのでしょうか?
UK: このような脳画像スキャンは、アッセイと同じもの、つまりαSynの存在する場所を見ることを目的としています。また、このスキャンでは、脳のどこにどれくらいのタンパク質があるのか、その解剖学的な範囲を示すことが期待できます。また、この種のスキャンは、時間の経過とともにタンパク質がどのように変化するか(進行に伴って増加するか、治療介入によって減少するか)を視覚化するのにも役立つかもしれません。これは、研究とケアの両方に役立つ補完的なツールです。
CQ:SAAは、経時的な変化を追うことができないとされているので、もしかしたら、先天的な状態を反映しているのかもしれない。この場合は、健常である方にこの検査をする必要性はないだろうと思います。難しい問題です。ただし、そうであっても、解決法が見つかりやすくなるかもしれません。
血液測定系を開発できれば、SCANよりはコスト低になることが期待されます。
編集部注:MJFFが資金提供したこの分野の研究の最新情報をご覧ください。(英語)
Editor’s note: Read the latest on MJFF-funded work in this area.
MJFF: 限界はなんですか?
UK: αSyn-SAAがパーキンソン病のバイオマーカーとして有効になることは、この分野で最も劇的な進歩であり、重要な発見の1つです。これは、脳の中を顕微鏡レベルで見ているようなものです。これにより、病気に対する考え方や患者さん一人ひとりの治療法について、まったく新しい考え方ができるようになります。
これは、私たちが前進していることを示すものです。 しかし、もちろん、まだまだやるべきことはあります。このブレークスルーをさらに前進させるために、皆さんもぜひPPMIに参加してください。これらの研究に参加された方々の貢献がなければ、今日の私たちの姿はなかったでしょう。
Editor’s note: Learn more and join PPMI.
Kang博士は、現在利用可能なアルファシヌクレイン種子増幅アッセイを開発したAmprion社の科学諮問委員を務めています。